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東京高等裁判所 昭和29年(う)2421号 判決

被告人 近藤一夫

〔抄 録〕

右控訴趣意第一点について。

所論にかんがみ記録を精査すると、原審第五回公判期日において検察官が、甲第一号証(川崎ハナの告訴状)、第二号証(医師渡辺龍五郎作成の診断書)、第三号証(今井軍平の覚書)、第四号証(今井金司の回答書)の証拠調を請求し被告人側はその証拠調に関し異議を申し立てたが、原審はこの異議申立を棄却し、右各号証を証拠として取り調べる旨決定し、その証拠調を行つたことが明らかである。そうして右証拠調の請求に関し、被告人側がその書面を証拠とすることに同意したかどうかの点については、記録上これを確認するに足りる明白な資料はないが、原審における審理経過の全般に徴すると、被告人側は同意しなかつたものとみるのが相当である。

しこうして原審が右各書面の証拠調を行い、そのうち甲第二号証(診断書)及び第三号証(覚書)を罪証の用に供していること並び第一号証(告訴状)及び第四号証(回答書)の各記載内容が、被告人にとつて不利益な事実であることは、いずれも所論のとおりである。

そこで原審の訴訟手続に所論のような違法があるかどうかを考えてみるに、

(一) 右第二号証は、医師渡辺龍五郎作成の川崎ハナに対する診断書であつて、かかる医師の診断書のごときは、実質的には鑑定の経過及び結果を記載した鑑定人の鑑定書と異なるところはないのであるから、刑事訴訟法第三百二十一条第四項を類推適用して差支なく、作成者たる医師が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、同条第一項の規定にかかわらずこれを証拠とすることができ、同法第三百二十六条による同意のあることを必要としないものと解すべきである。

そこで記録によると、右診断書の作成者である医師渡辺龍五郎が原審第五回公判期日において証人として尋問を受け、右診断書は自分の書いたものに相違なく、病名も事実であり、その作成日附たる昭和二十八年三月十九日に診断し、翌二十日頃交付したことは間違ない旨供述していることは、右第五回公判調書に徴し明白であるから、敍上説示したとおり該診断書は、被告人側の同意の有無にかかわらず、これを証拠とすることができることは多言を要せず、これを罪証の用に供した原審の措置は正当であり、その訴訟手続に違法の点はいささかも存しない。

(二) 次に右第三号証は、まさに所論のとおり同法第三百二十一条第一項第三号該当の書面であつて、これについては同号所定の供述者死亡等の諸要件を具備せず且つ同法第三百二十六条による同意もないのであるから、同法第三百二十条により証拠とすることはできないものである。従つてその証拠調を行つた原審の訴訟手続は違法であるのみならず、かかる適法な証拠調を経ていない証拠を罪証の用に供した原審の措置はこれまた違法の譏りを免がれないのであるが、その記載内容は、本件傷害事件の遠因と目せられる土地貸借問題に関するものであつて、本件傷害罪の構成要件事実を証明すべき直接証拠ではなく、本件犯罪事実は、同号証を除外したその他の原判決挙示の証拠により十分に認定されるからであるから、たとえ右のごとく証拠調の手続に違法があり、適法な証拠調を経ない証拠を罪証の用に供した違法があるとしても、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。

(三) 更に第一号証及び第四号証について按ずるに、これらの書面もまた右第三号証と同一の理由により証拠とすることはできないものであり、従つてこれが証拠調を行つた原審の訴訟手続はまさに所論のとおり違法であるが、右各書面はいずれも原判決に証拠として採用されてはいないのであるから、原審がその摘示にかかる犯罪事実を認定するについて心証を形成する資料に供したものとはにわかに断定し難く、従つて右の違法は未だもつて判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえないのであり、これと反対の見解に立脚する所論は採用することができない。

論旨は理由がない。

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